第3章 パンドラの箱

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 事務所の応接セット脇の俺の机には、固定式のパソコンがある。一応、簡易式のホームページを開設してあるから、仕事の相談依頼メールが届くようになっていた。一日に数回、これをチェックして来社日程を組み詳細を聞いて、見積書を提示するのが受付の流れだ。これも最近はあみが手伝ってくれるようになり、見落としは少なくなっている。余程の急ぎでじゃなければ、一日に二人まで受付けていた。浮気調査はあまりやらないが、たまに行方不明者追跡依頼の延長線上に浮気がある。口コミで勘違いしたヤツが問い合わせを入れてくることもごくたまにあった。それを差し支えない程度の断り文句で追い払う術も、いつの間にかあみは修得していた。俺の仕事をよく見ているのだろう。ファックスで相談依頼なんてのもよくあったが、あみが折り返し電話をいれてざっくり依頼内容を聞き取り、俺に後で連絡させるルーティンも出来ている。 「新聞に載らない事件てどれぐらいある?」  突然、背後からそんな質問が飛んできて、俺は作業を止めて振り返った。応接セットに座ったあみが俺を見上げて首を傾げる。この子のこの仕草は猫を連想する。  「事件にもよるな。警察は公式発表しない事件とか、そんなしょっちゅうじゃねぇし」 「なんで公式発表しないの?」 「捜査中の事件で、容疑者しか知りえないことを報道しちまったら色々面倒だからさ」 「面倒なヤツが沸いてくるから?」
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