第3章 パンドラの箱

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「ま、そういうことだ」 「面白がったり、自分が容疑者だって嘘吐いて目立とうとしたりするバカは、何が目的なの?」 「暇つぶしだろ。それに、人間てのは自己顕示欲があるせいで、時々間違った方向に自己顕示したくなっちまうのもいるんだろ。常識を逸脱した言動をして、周りの人々を引っ掻き回して、そいつらよりも自分の方が頭が良いって自己満足するバカは一定数いるもんだ。そんなのにいちいち構ってられねぇし、貴重な情報を混乱させられなからな」 「混乱て、証拠や証人になりそうな目撃者を消すとか?」 「そうだ」 「ふうん」  あみはマグカップの中のミルクを飲みながら、視線を窓の外に移した。  今、手掛けている捜査中のものの中で最も不可解なのは、おまえだ。と、俺は心の中だけでつぶやいた。  * 「最近、どうして泊まっていかないのか、わかっちゃった」  テラス席の傘の下で、ダークスーツに身を包んだ女刑事はため息を吐いた。長い髪を後ろに束ね、清潔感のあるメイクをした村本佳純は今年三十歳になる。抱き合うたびに「結婚しよ?」と言われているが、俺の中では結婚はなしだった。 「事務員雇ったんだ」 「だから、何度も説明してるがあいつは娘だ」 「向かいのパン屋から見たけど、れっきとした女じゃない。そのうち私みたいになるわよ、きっと」  不貞腐れた顔をして、ブラック珈琲を飲む。凛々しい眉毛が苦悶の表情を演出する。不機嫌の象徴だ。
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