第3章 パンドラの箱

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「……俺がバツイチなのは知ってるだろ? 別れた妻が失踪する前に俺に言ったんだ。 ”あなたの子供を堕胎しました。相談もなく勝手なことをしてごめんなさい”って」 「えぇ?」  佳純の顔色がさぁっと青くなった。 「その子がもしも産まれてきてくれていたら、ちょうどあみと同じ年なんだよ」 「……!」  佳純は唇を噛んで、俺の手に自分の手を重ねてきた。女の割にでかい彼女の手は温かくて気持ちがいい。俺が佳純の体のパーツで最も魅力を感じるこの手の感触にいつも励まして貰っている。 「……でも、それでもやっぱり。私があなたの子供を産みたいの」  逆プロポーズだ。そんな話をするつもりなんて無かったのに、俺は何て答えるべきかわからない。でも、そこまでこんな俺に惚れ込んでくれているのだと思うと、可愛くて仕方がない。 「愛の告白をありがとう。その話をするのは今じゃない。わかるだろ?」 「じゃ、いつする?」 「ははははは」 「はぐらかさないで。私、来月で三十歳になるのよ!女には子供を産むリミットはあるんだから!真剣に考えてくれないって言うなら、お見合いしちゃうから!!」  俺はもう笑うしかなかった。佳純があんまり真剣に訴えてくるから、くすぐったくて幸せで、全部投げ出してどこかにしけこんで気のすむまで抱き合いたくてしょうがなくなる。でも、今じゃない。 「わかったよ。じゃ、こうしようぜ。君の誕生日までには返事をするから」 「良い返事なんでしょうね?」 「ふっ、勘弁してくれよ。お楽しみは取っておいてくれよ、な? ちゃんとセッティングするし、驚かせてやるから」なんてこと言って、自分の首を絞めた。彼女はやっと納得したみたいで、俺の手を持ち上げて指にキスをした。どっちが男かわからないよ、まったく。
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