第3章 パンドラの箱

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 午後は今抱えてる調査のため、札幌市街より北にあるベッドタウンに車で出掛けた。風が強く吹き付けるせいで、風力発電用の白い風車が並んでいるのが見える。  調査対象者の勤め先に着いて少しすると、会社の営業用のバンを運転する対象者を確認した。怪しまれないように後ろを着いていくと、勤務中だというのにパチンコ屋の立体駐車場に侵入していく。二階のがら空きスペースの隅っこに車を止めるのを確認して俺は素通りし、対角線側の隅っこに車を駐めた。どこから沸いたのか、営業車の助手席にさっきまで居なかった女が乗っていた。楽しそうに話をしている。望遠レンズを装着し黒い布を被せてフロントから現場写真を撮影する。動画の録画もバッチリだが、音だけは拾えない。こういう時が一番中途半端だ。これだけ空いていると接近して音を拾うことも無理だ。だが、次の瞬間女は姿を消して運転席の男はリクライニングを下げ、顎を揺らしていた。時折、頭を持ち上げながら下腹部を気にしている。何をされているのかは一目瞭然だった。依頼主のやつれた奥さんを思い出して、俺はため息を付きながら証拠写真を撮った。  ホテルにも行かないでこんなところで何してる?  ずっと仕事で忙しいと言いながら、平日午後の密会には時間を割くわけだ。まだ幼い子供を抱え、保育園に送り迎えしながら仕事をしている依頼主の焦燥振りは痛々しかった。この証拠はかなりの破壊力を持つことになるだろう。
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