第3章 パンドラの箱

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 俺の髪を撫でながら、あみが耳元で囁いた。 「……わかったよ。あんたは親で、私は子供。それ意外にはなれない」 「えぇ? 嘘だろ? まさか、お前」  首に一瞬だけ柔らかい感触が押し付けられた。それがあみの唇だと思った途端、ゾクゾクと悪寒が背筋を上って来て腰が砕けそうになる。 「ここにキスマーク、ついてる」  冷たい声で言われて、俺は唖然としながらあみの顔を見た。少しだけ寂しそうな目が責めるように俺を見つめ返す。なんだ、これは。 「キスマークって、そんなことどこで…」 「啓介は私が本当に記憶喪失の可哀想な女の子だと思ってるんだね。そんなわけ、ないじゃん。記憶は壊れたパズルのピースみたいにひとつずつ取り戻してる」  俺の目を見つめながら、あみは妖艶な顔をしていた。 「そんな顔しないでよ。啓介には良い人がいるの、わかってるから」  そんな大人の女みたいなことを言うあみに、俺は少しだけ。いや。かなり、おっかなくなった。膝の上に座っている脚は、ズボンを履いていなかった。肉付きが良くなった彼女から、女特有のもっちりと軟かな感触がした。 「違う事で恩返しするよ」  そう言ったと思ったら、あみは俺の膝から降りて自分のベッドに向かって歩いて行った。大き目のトレーナーの下は尻が覗き、すらりと細く伸びた脚は半年前よりもずっと魅力的な女の脚になっていた。ゴクリと、なぜか唾を飲み下す程俺は動揺していた。  そして翌日。  あみは出会ったのだ。  彼女の視線は忽ち他の男に注がれるようになった。ホッとしている俺と、ヤキモキする俺と、相手の男をぶっ倒したくてしょうがない俺がいる。
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