第3章 パンドラの箱

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 もうすっかり紅葉が終わりそうな程の冷たい風が吹いているのに、俺はアイスコーヒーを飲む。離婚したいと亜沙美に言われた時の目が、脳裏に蘇ってきた。  今日見た二人の女の目と、とても良く似ていた。絶望とか失望と言った言葉が相応しい目とでも言っておこう。  愛する女にそんな顔をさせちまった不甲斐ない男。死体になった彼を俺は笑えない。笑ってはいけない。  彼は俺だ。  不幸はいつから始まっていたのだろうか?  佳純とどこまで本気で付き合えば良いのか、正直俺は迷っている。  彼女は結婚したいと言い、子供が欲しいと言ってくれているが、俺はどこかで生まれて来るはずだった娘がいたこと、その命が大人の都合で奪われたことに責任を感じている。だから、あみを拾い育て愛そうとしているのに、あみに女の顔を見た途端完全にビビってしまった。  俺は女が怖いのだろうか? 「いや、そうじゃないだろ。しっかりしろよ、俺」  墓地にやって来て、俺は亜沙美の実家の墓の前に立った。再婚して、妊娠して、臨月のお腹を偶然会った俺に見せつけて「今度こそ幸せになるから」と大声で叫んだ彼女が、身勝手な理由から蒸発したとは考えられなかった。亜沙美もまた、俺との間に出来た娘の命に責任を感じていたのを、俺は知っている。亡くなった亜沙美の両親にも申し訳なくて、俺は弱気になる度にここに来て懺悔した。
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