第3章 パンドラの箱

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 どんなに努力しても報われることなどない苦しみがある。亜沙美に起きた不幸の源はきっと俺の不甲斐なさのせいだから。結婚したら仕事より家庭を大事にしなければならないのに、俺は仕事ばかりにかまけていた。事件が俺を離してくれない、と本気で思い込んでいた。他人の人生にそこまで責任を持つことなんて、自分の家族より大事な他人なんていないっていうのに。一度、そう思ってしまったら刑事なんて馬鹿らしくなったのもある。亜沙美を見つけられない刑事なんて、存在自体がふざけていると。 「どこにいるんだ? 亜沙美」  佳純と結婚するなら、亜沙美を見つけてからじゃないとダメだろうな。俺は誰と結婚しようと家族になろうと、亜沙美が見つからない限り幸せにはなれない。そんな俺といても、佳純もあみも不幸にさせてしまう。  今日、なんとなく二人の女を見てそう感じていた。 「そろそろ、お前をもう一度真剣に探す努力をしなくちゃな」  枯れかけたぺんぺん草が墓石の周りで風に揺れながら、不甲斐ない俺を見上げていた。
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