僕の事

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 放課後のチャイムと同時に僕は席を立った。  開放感に沸く声の中をすり抜けて昇降口に向かい、靴に履き替える。  帰宅する生徒の群れに紛れる様にして校門へと歩く。  決して『誰とも』目を合わせない様に視線を足元に落としたまま。  それはバスに乗っても電車に乗っても変わらない。  変わった事と言えばヘッドホンを着けたくらいだ。  俯くせいでずり落ちてくる眼鏡を押し上げて僕は目を閉じる。  何も見ない様に。何も聞かない様に。  見てしまえば、聞いてしまえば、とてつもなく面倒だから。  最寄り駅を降りてバスに乗る。  睡魔に抗いつつバスに揺られ、寝落ちしかけて慌ててバスを降りる。  降りた目の前に伸びる石段を見て、わかっていても溜息が出る。 「せめてもうちょっと低かったらなぁ」  文句を言った所で低くなる訳でもエスカレーターになる訳でもない。  僕は溜息をつくと無理矢理に気合いを入れ、その長い石段へと足を掛けた。 「はぁ……はぁ……」  生まれてから17年。17年間ずっと昇り降りしているけど一向に慣れる気がしない。 「やっぱ…エスカレーター、欲しいなぁ!」  昇りきった時には息が上がり、軽く膝が笑ってる。  深呼吸して息を整えた僕は、ヘッドホンを外して首にかけ、ぱぁん! と手を打った。  僕の打った『柏手』は静けきった空気を揺らし、溶けていく。 「ただいま戻りました」  『鳥居』を潜り『社殿』の左手奥へと足を進める。  涼風が頬を撫で、木立を揺らす。  葉擦れの音がざわめくのを聞きつつ、僕は更に奥へと進んだ。  社殿から長く伸びた渡り廊下の先にどっしりと構える建物。  その玄関引き戸をからからと開け、靴を脱いで下足箱に入れる。 「おかえりなさい」 「ただいま」  短く返して、そのまま階段を上がり、僕は『自分の部屋』へと入った。  鞄とヘッドホンを机に置き、学ランを脱いでハンガーに掛けてからベッドに沈む。 「はぁー、疲れたぁ」  今日一日を思い返し、僕は憂鬱な溜息を天井へと吐き出した。
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