包まれた夏

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「パパが夕飯を作ってる間、トキオは先に風呂に入ってていいぞ」 嬉しそうな顔を浮かべ、トキオは風呂場の方へと駆けて行った。 湯気が立ち込める浴室は、少し神聖な感覚を呼び覚ます。 トキオは髪と身体を、父親に教えられた通り、丁寧に洗う。 ゆっくりと、浴槽に足を入れる。 肩までしっかりと浸かったら、両手の親指でそれぞれの両耳を塞ぎ、両手の人差し指でそれぞれの両鼻を塞ぐ。そうしておいて、身体を体育座りのように小さく、より小さく折り畳む。息をたっぷり吸い込むと、湯の中にぶくぶくと顔を潜らせた。 トキオは水面に小さな背中と可愛らしい尻をぷかりと浮かせた。 親指で塞いだ両耳から水の音が聞こえる。 小さなトキオの身体はしばらくの間だけ、ゆらゆらと浴槽の中で浮かぶ。 トキオはこの瞬間がたまらなく好きだったのだ。
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