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俺は人間であり、人間ではない。
カオにあれこれ言える立場ではない。
カオが一体一体のシンを見ていく。
朝陽を浴びているシンの内部で虹ができている。煌めきながら微睡んでいる。
シンはいずれも半透明だ。
年齢は一様に若い。
ここでの最低年齢は十歳。最高齢者は二十四歳だと聞いている。二十四歳の人は望んで外身を提供したらしい。
詳しくは知らない。俺がここを任されたときには、すでにぶら下がっていた。服装が古めかしいので、数十年前に引き抜かれたシンだと思われた。
ちなみに、シンの性別は半々だ。
もっとも、服装で判断しただけなので、心の中まではわからない。
そんな状態でぶら下がっているが一応、全員人間として普通に生活している。
カオがシンの一つに手を伸ばした。
「おいっ。無闇に触るなよ。こいつらに手を触れた時点で、即刻、ここから追放するからな。それだけは覚えとけ」
「わかった。やんない」
手を引っ込めた。
紐が切れたら困る。
そんな理由は教えない。
そしておもむろに、脅しておいたカオの頭上に付いている紐を引っ張る。イメージ的には鵜飼い。俺が鵜匠でカオが鵜だ。
他のシンから離れた天井にくっつける。
カオをぶら下げたら、俺の手のひらからカオの紐が離れた。内心、離れなかったらどうしようと思っていた。やれやれと安堵した。
「えっやだ。どうしてわたしまで、ぶら下がんなきゃなんないの?」
「それはおまえがシンだからさ。しかも、特別製のシンだ」
「わたし、特別?」
「普通は生きている人間からしかシンは引き抜けない。なのに死んだことに納得がいかない死人から、シンを抜いた。そういった話を聞いたことはあったが。まさか俺が遭遇して抜き出すことになるなんて。びっくりだ。というくらい、珍しい」
バラバラにされて捨てられていたら当然、強い怨念が生まれる。犯人に執着しようとする気がこの世に留まる。
「俺はこれから外身を纏う。人間として生活する以上、稼がないといけないんでね」
栄養補給と身繕い。
中身も大切だが、外身のメンテナンスも重要だ。
「ここの家賃、高そうだもんね。稼ぐの、大変そうだね」
「まあな」
本当に、要らない記憶は正常に残っている。どこまでの記憶を失っているのか。じつは記憶喪失の振りをしているのではないか。
そう思えるような反応をしてくる。
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