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長老と呼ばれている者たちが何人、何十人この近隣で暮らしているか、俺は知らない。
気が遠くなるほど長く生きていると、生き続けることに飽きるらしい。
己の紐を、外身に絡め取られたかのように。中から己が抜き出ないように、わざと中身と外身を紐で縛りつける。
そうして外身ごと、命を落とす。
永遠と言われている命を惜しげもなく、捨ててしまう。
外身の肉親にうっかり、中身が別人だと気づかれて反撃を受ける。外身の報復として外身に縛りつけられて絡め取られて、死に追いやられる。不意打ちで殺される。
そのような振りをして、じつのところは己の意思でそのように、人間に仕向けた。
ということも過去にあったと聞いている。
俺が敬愛していた長老も、この世に飽き飽きしていた。外身に絡め取られた振りをして、この世から消え去った気もする。
だが、俺は彼に生きていて欲しい。
仲間の誰かがどこかで、長老が纏う外身から中身を抜き出し、新しい体に移し替えていてくれればと願う。
ここにあった彼のシンは、とても綺麗に輝いていた。外身はまだ中年。寿命だとはとても思えない。突発的な事態にでも遭わない限り、彼には死が似合わない。
見つからない以上、ここで俺があれこれ考えていてもどうしようもない。今夜また捜しに出るか、情報収集を優先させるか。
ひとまず、俺自身を休ませよう。
俺は自分の寝室に行く。もちろんドアなど開けない。すり抜けて入る。
俺の外身、肉体がベッドに横たわっている。目を閉じている。寝ている。
一族の特性を知らない者が、俺という中身が抜け出ている空っぽの外身を起こしたら。
動きが極めて緩慢すぎることを訝しむ。
寝ぼけているのかと思う。
俺自身が外身、肉体から抜け出ていても、意識体である俺と、外身は紐で繋がっている。糸電話のように、しゃべりかけられれば応対できる。しばらく離れる場合は、用意しておいた軽食を食べるし、トイレにも行く。
ただ、通常動作の半分以下のスローモーションモードであるがゆえに、体調が悪いのなら寝ていろ、とベッドに戻される。俺には経験のないことだが。
自宅で、意識体として、中身が抜け出ている状態のときに、一族以外の素性の知れない者と居る。
こういう経験が俺にはない。
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