2  連れてきてしまった

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 俺は外身の頭のてっぺんと、中身のつま先とを合わせる。間でたわんでいる紐を頭上で引く。イメージとしては、手繰り寄せるというところか。  紐がピチッと緊張すれば、外身の頭のてっぺんに、中身のつま先が潜り込んでいく。  するんっ。するんっ。  寒天がのどに入っていくように、簡単に収まっていく。収まれば頭上から紐は消え、俺は外身とともに目覚める。  ベッドの上で背伸びをする。  髪の毛をわしゃわしゃ掻きながら、ドアを開けてキッチンに向かう。  冷蔵庫を開け、食品棚をあさる。  生身で食べると何でも美味い。  生きている。  いつものように実感でき、喜びに打ち震えた。  牛乳パックを水洗いして、パンと魚肉ソーセージのラップをゴミ箱に捨てる。この体、どうも安くできている。他人も羨む高級マンションに住んでいるというのに、安い食材やコンビニ弁当で舌が満足していた。  一族としての役目は一旦終了させる。  人間としての稼業に勤しむ。  シンがぶら下がっている部屋の向かい、北側の八畳間が俺の作業場だ。東と北に窓がある。だがブラインドカーテンは下げられたままだ。気分転換で開けるときもあるが、集中したいので大抵、閉めている。  俺の仕事はひと言で言えば、イラストレーターだ。ただし、ゴーストがつく。  タレントや有名人のイラストや絵画制作の手助けをしている。構図や題材を提案したリ、下絵を提供したリ、たまには全部描く。  高校一年生の夏、友人と二人で、同人誌即売会に出た。タレントのイラストやカットを下手ウマで味付けして模写した本を売った。小部数のコピー本から始め、一年後にはカラー表紙本を五百冊売り切るほどになっていた。  俺は描き手専門で、同級生の相方が同人誌にかかる資金を全額出した。編集して、即売会に申し込みをした。友人は描けないが、即売会に参加して雰囲気を味わいたかったようだ。  俺としては自分の本を作って売ってもらえて嬉しかった。しかも、将来の就職先まで掴めたのだ。  高校三年生のゴールデンウィーク中にあった即売会で、俺は大手芸能プロダクションからスカウトされた。そこに所属している数名のタレントのイラストパロディを描いていたのだ。  いっそのことうちの事務所に来て、その手腕を生かせ。  そう言われたので、そこに所属することにした。
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