2  連れてきてしまった

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 俺は劣化コピーではなく、タレント本人が描かないような構図で描いた。  もしかしたらタレント本人の改心作?  偽名を使って面白がっている?  描き溜めたイラストを同人誌にして、こっそり売ってみた。所属事務所が話題作りとして、本人に成り代わり、売り出した。エンタメニュースで話題に取り上げられそうなほどのでき具合だった。  けれど明らかに俺のほうが上手かった。  芸能事務所の、絵画部門ゴーストライターとして雇用された。  納戸にぶら下げてある俺の元の中身。シンが、その方面に類い稀な才能があったらしい。  俺は小学生の体を奪い、乗り移っている。    意識体である俺たち一族と、奪った人間の肉体は、無意識のうちに混じり合う。相互侵食は珍しくない。中身と外身は絶えず影響し合うものだ。若い体を纏うと、中身の俺たちは、外身の影響を受けやすくなる。  少年から青年へ。肉体が成長していく過程で、生まれつき持っている内面、奪った個体の性質が、外身から滲み出てくるのだ。  俺が纏ったこの体、外身は、絵描き方面に稀有な才能があったらしい。成長とともに外身を纏った俺を感化して、俺本来の性格と相まみえて、見事開花した。  この体のシン本人は、もしかしたら漫画家になりたがっていたのかも知れない。売れっ子漫画家になれた気もするが、寝食忘れて漫画を描くのは大変そうなので、やめておいた。  外身をシン本人に返す日がいつになるかわからないが。そのとき、改めて漫画家に挑戦してもらえばいい。  それが死の直前だったら。  悪いが、あきらめてもらうしかない。  おかげで俺は高校卒業後、大卒並みの給与を得られることになった。作品の評判がタレントの価値を上げたとき、口止め料としての臨時支給があった。  首都圏で住んでいたら、親や知人たちに振り回されそうな気がした。なにしろ、思いがけない高収入を毎月得ている。金欠病の親たちに知られたら、たかられっぱなしで毎日暮らしていくはめに陥ることがわかっていた。  芸能プロダクションに就職が決まった。地域密着タレントとして地方に配属されることになった。四十歳過ぎて目が出なかったら配属先で就職する。  親たちにそう言って、ここに来た。  事務所は地方都市への引っ越しを歓迎した。首都圏で住んで居られるよりも隠蔽しやすいからだ。  堅実な生き方を俺は選び、縁もゆかりもないこの地に来た。
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