2  連れてきてしまった

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 俺は外身の親、仮初めの親から独立できた。  親から離れたほうが、一族として動きやすい。狭い居住空間では、外身から抜け出るのもひと苦労だ。中抜けの体を長時間放ってもおけない。そういう様々な理由がある。  大学進学は普通、するでしょ。  当たり前のように言った同人誌の相方も。  子ども時代から仲良くしていた友だちも。  ここに来る前に全員捨ててきた。  今の俺が、彼ら彼女たちに連絡を取ることは、ない。何かを受け取ることももうない。  俺はこの地方都市に、根を下ろした。  俺は売れっ子漫画家くらい忙しい。  タレントがSNSでイラストを載せたり、画廊やデパートで個展や企画展を催す場合、俺は諸々の手助けをする。  全体のテーマ。画材選び。構図のヒント。下絵。仕上げ。丸投げもあるが、そこは事務所と要相談だ。  パソコンでの作画はできて当たり前の業界。手描きのカラーマーカーイラストや水彩画も得意分野で、水墨画は漫画を描く感覚の延長で描けている。  油絵は描いたことがなかった。事務所はそんな俺を油絵教室に通わせた。学費を払ってくれた。それくらい、口の堅い俺は信頼され、重宝されている。  仕事人の俺は、すでにこのマンションくらい余裕で買える。資産を貯えている。  だが一族の手前、糊口をしのぐためなら何でも描く金欠病のイラストレーターを装っている。一段低く見られているほうが、気楽に過ごせるからだ。  俺の外身はまだまだ若く、使える時間はたっぷりとある。  だから拾ってしまったのか。  この面倒くさそうな奴を。  集中させていた気が途切れる。  散らかしていたマーカーの中から、桜色のフタを探す。フタをして、目線を上げる。 「なんでここに居るんだ、おまえ」  俺の作業をのぞき込んできたカオに、しかめっ面を見せながら、訊く。 「体をぶらぶらさせてたら、天井から外れたの」 「見られてると、気が散るんだよ。テレビつけてやるから、リビングに居ろ」  俺は渋々立ち上がる。  死者の紐はさすがに脆いようだ。  死んでいるから。  本体が腐っているから。  だから紐も儚くなるのか。  カオの頭上の紐はカスカスだ。  これはこれで興味深い体験ができている。  少し、嬉しい。  目を細める。    それにしても今日はいい天気だ。  カーテンの隙間から、細く光が差し込む。
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