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泥の中から俺を見上げる目がある。
うわぁ。面倒くさいものを見つけた。
無視して通り過ぎようと目線を外した。
「ちょっと。わたしを助ける気、ないの?」
呼ぶ声に、うっかり足を止めてしまった。
「俺が捨てたわけじゃない。捨てた奴に拾ってもらえ」
軽くあしらい、立ち去ろうとした。
「わたしを立たせてくれるだけでいいから」
「それは少しばかり難しい要求だ」
女らしきモノに眉根を寄せる。
「わたし、そんなに重くないよ」
「うん。それは見てわかる。だがな」
「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら、女の子を助けなよ」
「では、こうすれば満足してもらえるかな」
俺は親指と人差し指で潰さないように、持ち上げる角度を微調整する。かろうじて掴めそうな片方の隙間に、中指も添えて三本の指を差し込む。
手のひらにそっと、すくい上げた。
「ひゃあっ」
自称女子が叫び声を上げた。
「おっ、下ろして。目、目が回る」
元の位置に収めてやる。
希望を叶えてやった。
「やだ。何したの? う~気持ち悪っ」
「ほう? 気持ち悪いとな」
これのどこがどう反応しているのか、とても不思議だ。
自称女子は二つの目を大きく開けている。
だが生きてはいない。
首から下の体がない。
胴体も腕も脚もない。
頭部しかないのだ。
青白い月の光に照らされている自称女子の顔は傾き、左頬がぐじゃぐじゃの泥に埋まりかけている。
否。
埋まっていた頭が三日続きの土砂降りで、地表に出てきたのだ。
そんな状態のモノを俺は見つけてしまった。
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