1 見つけてしまった

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 泥の中から俺を見上げる目がある。  うわぁ。面倒くさいものを見つけた。  無視して通り過ぎようと目線を外した。 「ちょっと。わたしを助ける気、ないの?」  呼ぶ声に、うっかり足を止めてしまった。 「俺が捨てたわけじゃない。捨てた奴に拾ってもらえ」  軽くあしらい、立ち去ろうとした。 「わたしを立たせてくれるだけでいいから」 「それは少しばかり難しい要求だ」  女らしきモノに眉根を寄せる。 「わたし、そんなに重くないよ」 「うん。それは見てわかる。だがな」  「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら、女の子を助けなよ」 「では、こうすれば満足してもらえるかな」  俺は親指と人差し指で潰さないように、持ち上げる角度を微調整する。かろうじて掴めそうな片方の隙間に、中指も添えて三本の指を差し込む。  手のひらにそっと、すくい上げた。 「ひゃあっ」  自称女子が叫び声を上げた。 「おっ、下ろして。目、目が回る」  元の位置に収めてやる。  希望を叶えてやった。 「やだ。何したの? う~気持ち悪っ」 「ほう? 気持ち悪いとな」  これのどこがどう反応しているのか、とても不思議だ。  自称女子は二つの目を大きく開けている。  だが生きてはいない。  首から下の体がない。  胴体も腕も脚もない。  頭部しかないのだ。  青白い月の光に照らされている自称女子の顔は傾き、左頬がぐじゃぐじゃの泥に埋まりかけている。  否。  埋まっていた頭が三日続きの土砂降りで、地表に出てきたのだ。 そんな状態のモノを俺は見つけてしまった。  
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