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俺は九月の連休を利用して、まだ生きているはずの人間を捜しに山へと来た。
コレは頭だけ。捜しているものは体丸ごと。首とつながり、呼吸しているはずだ。
俺が迷って転がり落ちるならこんな山道の、こんなところ。
広域マップで見当をつけ、ここへと飛んで来た。車一台がかろうじて通れそうな未舗装の道をはずれ、ぬかるむ山肌を下り、深夜、捜し歩いていた。見つけあぐねていた。
そろそろ夜が明ける。一旦帰るか。
振り返るように左足を斜め上に出した。木株にしては丸すぎるものが目に入った。
そうして見つけてしまったのがコレだ。
こんなモノを見つけるために、わざわざ遠方の山奥まで来たわけではない。
自宅マンションから捜しに出る間際に雨が上がった。山はそこかしこ、濡れそぼっていた。紅葉にはまだ早い楢やブナ。木々に絡むカラスウリと山ブドウはそろそろ熟したような色をしていた。
足下のぬかるみは尋常ではない。気を抜くと、谷底へとうっかり転げ落ちそうだ。
自称女子は口を噤んだままでいる。
今のうちに離れてしまおう。
足を一歩踏み出して……
「だから助けてって言ってるでしょ」
自称女子は俺を離さない。逃げ損なってしまった。自分がどうなっているのか、自覚がなくて困る。
そして、あたかも口でしゃべっているかのように、俺の脳内に語りかけてこられるのは、どういうわけだ?
戦国武将ならば首検めに使えそうな、自称女子の首級。死してなお、頭部内に記憶が根強く残存しているということか。
俺は腕を組む。
熟考することなく腕を解く。
だったら、できるかもな。
ひとつ頷く。自称女子に提案する。
「わかった。俺も腹を括る。だからおまえもしっかりと受け止めろ。俺がしゃべってもいいと言うまで、黙ってろ。わめいたら途中で放り出すからな」
「え? うん。大声出して暴れたりしない、ようにする」
「暴れない。騒がない。従わなければ、即座に放置して、俺はここから去る」
「おとなしくしています」
「だったら手助けしてやる。もう一度言っておくが、おまえをここに連れて来たのは俺じゃない。そこだけは断言しておく。おまえも疑うな。間違えるな」
言質を取れたかどうか怪しいが、くどく言い渡した。お門違いなクレームは一切受け付けない。いざとなれば適当なモノに縛りつけてやる。
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