1 見つけてしまった

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 などと気を逸らしながら、首だけ女子の頭のてっぺんに手を添える。二度三度、くるくると時計回りに撫でる。頭の輪郭が二重三重にぶれて見える。  出てきた。  よもやと思っていたが、本当に出てきてしまった。ふわんっと半透明のシンが、出た。  シン。生きている人間ならば、必ず体内に潜ませている己自身のありとあらゆる記憶。  その記憶を、本人の姿のままで頭頂から引き抜き出せることなど、人間は知らない。  自我。真実の心。自分に対して嘘いつわりのない胸裡。シン。俺たちはシンを意識体とも呼ぶ。  シンは生きている人間だけが持つと聞いていた。だが死者から出てきてしまった。出たからには、紐を付けないわけにはいかない。  手を空中でくるくると回す。  赤く細長い紐が現れた。  出てきた紐を自称女子のシンに付ける。  ああ、紐も付くんだ。  妙な感慨に耽りながら、紐を伸ばす。  女子の頭部に付いている紐を俺は握る。  では抜きますか。  いつもの要領で引き抜いていく。  いつもと違うのは、引き抜き対象が死人というところだ。しかも、頭しかここにはない。引き抜くのはいいが、頭だけで首から下がないシンが現れてくる可能性は大だ。明瞭な意思がありそうだったので挑戦しているが、遺志でもあり得る。成り行きに任せるしかない。  うだうだ考えているうちに、頬辺りまで抜けてきた。実物は泥まみれだが思っていた通り、中身であるシンは汚れてない。ツヤツヤの頬をしている。  女の子を自称していたが、正真正銘本物の若い女子らしい。十代の終わりか二十代前半。派手なメイク顔で出てきたと俺は感じた。腐り頭が醸し出す気配を元に推測していく。  あごが出て、のどとなる。  さてここから先。ちょん切れているか、続けて肩が出てくるか。巨大マグロを釣り上げるように心が躍る。  もちろんマグロを釣ったことなどない。海のない県で育った。釣り上げるとしたらフナかナマズだ。  にゅるんと肩が出てきた。するすると腕や胴体が続く。生きていればお付き合いしたいくらいのナイスバディだ。見事、つま先まできれいに現れた。俺はひと仕事終わらせられた充足感でいっぱいとなる。  しかし、ずっと浸ってはいられない。  釣り上げた女子の頬が恐怖で引きつれている。目の前にあるものを見て悲鳴を上げないのは、俺との約束を守っているからだ。  
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