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そうすれば警察が来て、捜査が始まる。
ニュースになれば家出人や行方不明者と照会され、どこの誰だかわかる。
うっかり見つけてもらい損ねたら。
今年中に見つけてもらえなければ。
除夜の鐘の音とともに紐を切る。
新たな歳へ、不明瞭なモノは持ち越せない。紐を切られた頭だけ女子は鐘の音とともにこの山に舞い戻る。辺りを彷徨うことになる。心霊スポットのできあがりだ。
「俺んちに居る間、おまえのことをアタマオンナって呼ぶからな」
「えーっ、それ、やだ。メメ。ミミ。ハナ。デコ。……ポッペとか」
「それ全部、おまえが今見てる、おまえのパーツじゃないか。呼んで欲しい名前はないのか」
いつでも切り捨てられる立場の俺は、鷹揚に構える。苦笑する。
「だったら、わたしの名前はカオがいいかな」
よろしくね。
カオが笑う。
刹那。握っている紐が。
俺の手にべったりと癒着した。
しまった。取り憑かれた。
カオが本名のようだ。
俺とカオの縁がつながってしまった。
出会った直後からわかっていた気もする。
紐をつなげたときに観念していた気がする。
闇が薄まってきた。
本来の目的だった男の捜索は一旦打ち切ろう。
俺は自分に付いている紐を足先から頭のてっぺんに移動させる。
くいっ、くいっと紐を引っ張る。
すうっと上昇していく。
感覚で言えば、未確認飛行物体乗車中。
山々と田畑が鈍色に染まってきた。
「うわあっ。楽しい」
紐にぶら下がっているカオが歓声を上げる。遊覧飛行と間違えている。余裕で訊いてくる。
「で、お兄さんの名前は?」
「キジローだ」
「本名? あだ名?」
「そんなことより。スピード、上げるぞ」
ひゃあああああぁ。
俺のひざ辺りでカオが悲鳴を上げた。
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