116人が本棚に入れています
本棚に追加
/290ページ
出会い
雨がシトシト降りしきる午後のこと
有希子はピザ屋の仕事を終えると急ぎ足で
マンションへと帰る道すがら
一台の高級な黒色セダンが横を走り抜ける。
ピシャッと雨水が有希子のワンピースに跳ねあがり
キャッと声をあげた、その時 後ろのドアーが開き
一見30代後半位の苦味ばしった男性が近付いて来た。
男は低い声で、すまない。服を汚してしまったな!
クリーニング代だと言って懐から、品の良い黒色長財布から
おもむろに一万円札を3枚、手に握らせてきた。
有希子はクリーニング代が三万円も要る筈もなく
その男に突き返した。
[こんなに要りません。クリーニング代はけっこうです。]と
言って又 足早に歩き出した。
すると車の中から、背の高い体格のごつい男が下りてきた。
[君、すまなかったね。クリーニング代は取ってくれ!]
と言って、先ほどの男の手から札を取り、私の腕を掴んで
手に握らせてきた。
有希子は[要りません。大丈夫ですから!]と言って
歩き出そうとすると、その背の高い男は又しても腕を掴んできた。
[君、男が一旦出した金をしまわすような事を言うな!]
[恥をかかせんでくれるか?]
[俺は永澤諒と言うんだけど、君の名前を教えてくれないか?]
有希子は[ごめんなさい。でも、名前を教える事はできません。]
[私、これから仕事が有るので先を急ぎますので失礼します。]と言って小走りに家路を急ぐ。
これが有希子と諒の出会いで、これから先の切ない恋が
待ち受けて居ようとは思いもよらない二人であった。
最初のコメントを投稿しよう!