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恭一郎は若い頃は東京の冬がこんなに寒いと恭一郎は感じたことはなかった。それは今年四十五歳になるが今までにも寒い年は確かにあったが、自分の体がこんなに芯から冷えてしまうと感じたことも無かったのだ。
部屋のストーブに火を入れて手をかざすと一層寒さが身に染みた。
「ああ、寒いな。全くどうしたのか」
何気なく独り言を呟くと、斜め後ろから
「そりゃあお前が歳とったからだよ」
いきなりの声に驚て振り向くと、歳は七十を既に超えていようか、白髪の髪が肩の下まで伸び、顔は深い皺に刻まれていた。着ているものは以前はちゃんとした色があったのだろうが、もはや元の色も判らないほど薄汚れていた。
自分しかこの部屋には居ないと思っていた恭一郎は腰を抜かして
「あ、あんた誰? それにどうやってここに入ったの?」
それだけを言うのが精一杯だった。
「俺か? 俺は『死神』だ。そうお前らが死ぬと俺達があの世に案内する習わしになっているんだ。それなのに、お前らと来たら、最近は長生きばかりで、ろくに死やしねえ。俺達はな、お前らが死なないとおまんまの食い上げになっちまうんだ。だから見ろ! こんな薄汚れた格好しか出来ねえじゃねえか」
「し、死神さん……ですか? じゃあ~僕死んじゃうんですか?」
恭一郎は驚きながらもやっとそれだけを尋ねた。
「早合点するな。お前の寿命はまだ沢山残ってるわ。今日お前の前に現れたのはな、俺らが暇なもう一つの理由を少しでも解消する為に現れたんだ」
「もうひとつの理由って何ですか?」
恭一郎は思ったより死神が怖くないので何とか普通の口を利けるようになって来た。
「それはな、お前らが結婚せずに子供を作らないからだ。子供が生まれて子沢山になれば、人口が増える。そうなれば俺達の仕事も活況を呈すると言うものだ」
恭一郎は、そんなものかと感心していたが
「お前のことだぞ! いい年しやがって独身で、子供も作らないと来ている。全くお前のような奴が居るから俺らが困るんだ」
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