消えゆく。

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 父は出張に行っていて、ここひと月程は家を空けている。仕事だから仕方のない事は良く分かる。現実、私だってこの春から社会人になり、仕事というものを少しずつ学んできたつもりだ。社会のルールに従わなければいけない。それは大人になる度に身に染みて馴染んでくるものだ。  しかし、そんな父の事すらズルいと思ってしまう私は、やっぱり人として、最低なのかも知れない。 「サチコ、まだご飯は出来ないのかい?」 「はいはい、もう出来ますよ~。やだわ、おばあちゃんたら、さっきも同じ事聞いたじゃないの!まだ5分も経ってないわよ。まったく、食いしん坊ねぇ」  母は笑いながら、机にお皿を並べる。 「いいえ、初めて聞きましたよ?サチコは本当に適当な事ばかり言って……」  文句をぶつぶつ言いながら、祖母が食卓の椅子に腰を掛けた。私は祖母の茶碗にご飯をよそって、祖母の前に強めに置いた。 「わ!びっくりした。大きな音立てて、まぁ……」  祖母が大袈裟に耳を抑えている。 「あぁ、ごめん」  母がチラッと私を見たけれど、気に留めずに次の茶碗にご飯をよそった。なんで母はイライラしないのだろうか?勝手に忘れたのは祖母の方なのに。なんで……。
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