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「分かってるって。安心して。
渋谷だから十時前に出れば間に合うわよね。
それまでにちゃんと身だしなみをチェックするから。
さすがにこの状態でクライアントに顔は出せないよ」
この状態とは髪のことを指している。
元々髪質が猫の毛のように柔らかく細いので、肩より眺めのロングヘアは少し急いだだけでもあちらこちらに紙が散ってしまうため、ボサボサだと言われる始末だ。
ふわふわしていて羨ましいと言われることもあるが、仕事で走り回ることが多い百々子にとって不便なだけだった。
パソコンを立ち上げてメールのチェックを済ませ、急いで化粧室へ駆け込んだ。
きっとヨレヨレになっているはずという予想は当たり、厚塗りにならないように注意しながら素早く処置を施す。
そして髪と身なりを整えると、すぐに由希と共に渋谷へ向かった。
打ち合わせを終えて、会社に戻ると午後一時を回っていた。
百々子と由希が真っ先に向かったのは社員食堂だ。
どんなに時間に追われていても、空腹を満たすことを優先するのは人間の性である。
25階建てビルの最上階にある社員食堂は、昼のピーク時を過ぎたとはいえ、依然たくさんの人で賑わっていた。
一般開放されていて、地上100メートルからみなとみらいを 一望できる景色のよさと、安くて美味しいことから、いつも三時近くまで席はいっぱいで客足が途切れることはない。
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