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「え……?」
予期せぬ言葉に動揺する。
聞き間違いだと思うことにして、百々子は慌ててファイルを閉じた。
「わ、私、先に戻りますね」
そう言って、陽一の横を通り過ぎようとした。
しかし、その寸前で彼に抱きしめられた。
ファイルが手から滑り落ち、乾いた音とともに書類が床に散らばった。
両手で胸を押そうとしたが、それを拒むように強い力でまた引き寄せられた。
スーツの胸元からコーヒー特有のほろ苦いにおいがした。
「あ、朝比奈主任、離して下さい」
「嫌だって言ったら?」
低い声で囁かれ、耳元が熱くなる。
「だ、誰かが来たら……」
「誰も来ないから大丈夫」
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