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「俺、ついこの間透に会ったんだ」
ずっと黙り込んでいた涼が悲しそうに呟いた。
「透、社会人になってから想像以上に仕事に追われていただろ?
俺と真人も年々会うのが難しくなっていたんだ。
二週間くらい前かな。
たまたま仕事帰りに透と遭遇したんだけど、何ていうかアイツ……痛々しくて見ていられなかった。
母親に捨てられた時の夢を見るってその時打ち明けられてさ。
今までこんなこと一度もなかったのに、って憔悴しきった顔で言うから、俺何て言ってあげたらいいのか分からなかったよ」
「……百々子、それ知ってた?」
菜穂の問いかけに百々子は頭を振った。
「フラッシュバックってショックを受けた直後に出るとは限らなくて、何十年経ってから出るケースも多いらしい。
大人になってから過去に向き合えなかった自分と苦しむ人もいるって前に聞いたことがある。
思い返せば母親が家を出て行った頃の透は、失意や悲しみといった感情はすべて蓋をしてショックに引きずり込まれないようにしていた。
弱さを隠して強くなるしかなかったんだと思う。
だから今その反動が来たのかもしれない」
透は知らないところで、一人で悩み苦しんでいたのだろうか。
未だ夢に出るほど過去の記憶に苛まれていたのかもしれない。
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