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「透が仕事のことで悩んでいることも、未だにお母さんへの罪悪感に苛まれていることも、何一つ気づいてあげることができなかった。
すれ違いが続いてく中で、いつの間にか私も透も弱音を吐き出せなくなってしまった。
弱い部分を見せることができなくなってしまったんだよ。
お互いに思いを伝い合えることができない関係なんて、そんなの恋人って言えないよね……?」
最後の最後まで本音をぶつけ合うことができなかった。
透の弱さを吐き出せる場所にも、拠り所にもなれなかった。
何が変わってしまったのだろう。
あの頃の私たちは、真摯で、ひたむきで、たしかな絆で気持ちを分かち合うことができていたのに。
ただ分かることは、私は透の支えになれないということだ。
誕生日当日、透のそばから離れたいと願ってしまった自分がいた。
彼の存在で埋め尽くされた頭の中を空っぽに消して楽になりたい、とも。
「百々子……」
背中を擦る菜穂の温もりが優しくて、抑えきれずに涙が溢れ出した。
これでよかったのだと自分に言い聞かしながら、何度も手で拭ってみたが、
それでも追いつかず、とめどなく流れ出るばかりだった。
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