897人が本棚に入れています
本棚に追加
俺のスマートフォン端末には、位置情報が検索出来る機能が備わっている。
失くした時に便利かと軽い気持ちで、デフォルトの設定のままにしていた。
記憶の限りでは、IDのパスワードを設定した際も寧実が隣に居たし、端末を放置して席を外したことも何度だってある。やましいことはなかったからだ。
他の端末からログインすれば最初にメールが送信される筈だが、痕跡を消されていたのかも知れない。
寧実が俺と花澄の前にタイミング良く登場して、疑惑は確固としたものに変貌したが、けしかけても口を割らなかったから、敢えてオフにはしなかったのだ。
逆手に取って見せつければ、何らかの反応を得られるだろうと踏んだ。
もう誰にばれても構わないと、花澄を抱き締めた時『良いんだ』と言った。
いずれ彼女と関係を持つことが、寧実への別離の示唆になるかも知れないとは、考えていた。
しかし、前の女の子は身体を震わせたまま顔を上げない。
「問い詰められる覚悟だったんだけどな……」
寧実から視線を逸らし、息を吐く。
いつものように直ぐに連絡を入れてくるかと読んでいたのに、そこは見当が外れた。
目線の先のオープンラックを虚ろに眺め、唇を噛んだ。
最初のコメントを投稿しよう!