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──10年余り一緒に居て、此処まで疑われている。
束縛が始まった当初は、何もない、潔白だったのに信じて貰えていなかったことになる。
そのことが俺の心に深く影を落としていたのだと、あの日確信を持った瞬間、気付いた。
ただただ悲しかった。
俺達の長い日々は、一体何だったのだろうと。
徐々に嘘で返すようになったのは、壊したくなったからだった。
そんなに信じられないなら、その通りの男になってやろうと、渦巻いた気持ちが芽生える。
寧実の心を蝕んでしまった不安が、俺の心をも巣食う──
黙りこくっていた彼女が突然立ち上がり、顔を向けた。
つかつかとこちらへ足を踏み出したかと思うと、頬に痛みが走った。
平手を食らわせた右手は小刻みに揺れており、凄まじい怒りに歪められた顔には大粒の涙が伝っていた。
「酷い……っ。解ってて、此処まですることないじゃない……っ!」
目の前の揺れる瞳を真っ直ぐに見つめると、僅かに怯んだかのように顔を強ばらせていて、心が軋んだ。
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