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しかし、この胸の痛みは寧実のそれとは比べ物にならないだろうと過ぎらせながら、静かに告げた。
「……俺は、寧実が思ってた通りの、しょうもない人間だよ」
眉を下げた綺麗な顔が、みるみる内にくしゃくしゃに歪んだが、構わず続けた。
「別れよう」
淡々と言い渡した俺に対し、震える唇からしゃくり上げる声が漏れた。
「……ひっ……うく……っ」
再びその場にへたり込むと、短い髪が床へ付きそうなくらいに背中を折り曲げ、項垂れた。
「うわぁぁぁ……」
その光景を見下ろしながらも、今後下手に出るつもりはなかった。
この一日、考え抜いた末の一つの結論があった。
『傷付けたくない』なんて言うのは優しさではないと、そんなものは自分が傷付きたくないが為の予防線だと、俺は花澄に教えて貰ったのだ。
これで俺のことなんて嫌って、憎んで、忘れてくれたらいい。
「…………帰って」
暫し泣き喚いていた声が幾らか収まったかと思うと、床に伏したままで、くぐもって届いた。
まだ別れの了解は取れていなかったが、別れたところで花澄と付き合えるわけでもない。
今日のところは、大人しく引き下がることにした。
ここまで追い詰めて尚、寧実が首を縦に振らなかったとしても、もう決して後戻りはしない。
例え長期戦になろうとも、貫く覚悟を固めた。
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