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この半月、俺はあの男の動向を観察していた。
近付く一番のチャンスは、やはり喫煙所だろうと読んだ。
この建物は喫煙ルームがなく、1階の通用口前がそのスペースになっており、吸わない俺にとっても比較的近寄り易かった。
彼は、昼休みに必ずそこへ立ち寄った。
幸いすぐ側に自販機もある。
携えた鞄から財布を取り出し缶コーヒーを購入すると、いかにも偶然居合わせたように装って顔を向けた。
数メートル先の男が俺に気が付いて目を合わせた。
「射場係長。お疲れ様です」
「中薗か。お疲れ様」
独特の芳香がある煙を吐き出している男に近寄り、笑顔を作った。
第1施工部とは業務上、接点が多い。以前までのこの人との関係は、特段仲良くも悪くもない、至って平均的な上司と部下だったと認識している。
手の内を知られていないことが、かえって好都合だった。
「ご結婚されたんですよね。おめでとうございます。どうですか、新婚生活は?」
「あぁ、ありがとう。もう設計室にも知れてるのか」
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