実感

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「俺だって人に誇れるような恋愛、したことないし」 遠くを見るような目で、壁を見上げる。 長い睫毛に影が落ちて、憂いを醸して見えた。 「えっ……だって、結婚するんじゃ」 「…………皆、好き勝手言いやがって……」 舌打ちでもしたそうに顔を歪める。 そんな表情も見せてくれるんだと心踊らせるなんて、わたしは見込み通り馬鹿だと悩ましかった。 「じゃあ、結婚しない……?」 「……結婚ねぇ……するんじゃない?」 「“するんじゃない”って……そんな他人事みたいに」 結局するんじゃないかと心で突っ込みを入れつつも、恐る恐る視線を滑らせ窺い見た。 ビールを流し込んで喉仏を上下させた後、再度肘を付き顔をこちらへ向ける。 「小椋さんは、結婚考えた人いる?」 「……」 そんなもの射場係長しか居らず、それも相手は考えていなかった。 わたしが一方的に、独りよがりに願っていただけ。 「あっ……何か、聞いたら駄目なやつだった?」 僅かに苦笑いを浮かべられ、ちょっとだけ傷付いた。
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