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「……そうなのかな」
どうしてそんな曖昧な返事をするんだろうと、僅かに胸が騒めく。
だけどそれ以上は追求出来ずに、唇を結んだ。
彼の方も黙ったまま咀嚼を終えると、次の前菜を選び取るべくフォークを彷徨わせながら、口に出した。
「……支えたいとは思ってる。彼女、色々……家庭の事情があってさ」
「……そうですか……」
パテに突き刺された金属の先が、皿に当たって不愉快な音を立てた。
なんだ、やっぱり大切に思ってるんだ。
心に浮かべると、自分で首を突っ込んでおきながらズキズキと痛み始める。
ピンク色の泡が萎んだグラスを覗き込む。
吸い込まれるように、円柱状のガラスへ添えた手に力が篭り、中の空洞を見つめた。
思い返せば、そもそもいつでもその傾向があったかも知れない。
怖いもの見たさのような、よくわからない感情に囚われて、自ら沼に飛び込んで行くんじゃないか。
虚ろに一点を見つめては、心の渦に巻き込まれそうな気配を感じ取り、慌てて顔を上げた。
中薗さんは、わたしの様子を頓着するでもなさそうにメニューへ視線を落としていて、胸を撫で下ろした。
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