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追加注文した、トリッパの辛トマト煮込みが運ばれた。
基本的にホルモンは苦手だが、このイタリア料理のハチノスの煮込みだけは、柔らかく味付けも濃厚なので食べやすくて好きだ。
「あっ、これ……すっごい美味しい~!」
口へ入れると、塞いだ気分も吹き飛びそうな程だった。
トマトの甘味とスパイシーな辛味がよく絡んで、癖になりそうだ。
口元を掌で覆いながら、興奮した顔を隣へ向ける。
「辛くない? それ」
「トマト煮って大好きなんですよ! この辛味は、唐辛子かな? 粗挽きのブラックペッパーも入ってるみたいですね。スパイスが効いてます!」
思わず語ってしまうと、中薗さんは頷きつつも、どういうわけか眉を下げている。
「……俺、辛いの駄目なんだよね……」
「えっ! そうだったんですか!? 早く言って下さいよ!」
それなら頼まないのにと、唇を尖らせた。
もしかしたら甘党なのかも知れない。
「だから……好きなだけ食べてよ」
「……それじゃあ……頂いちゃいますね?」
口に合わないのなら仕方ない。
然程大きくはないココットに入っているので、余裕で食べられてしまいそうだ。
実は嬉しく、では遠慮なくと言わんばかりに頬張っていると、中薗さんは左手を顎に付いて、にこにことこちらを眺めている。
何だか唐突に恥ずかしさが込み上げて来た。
料理の辛さも相まって、熱くなった頬を掌で軽く扇ぐ。
隣の人がカウンターへ向き直ったかと思うと、中の店員へ告げた。
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