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「チョリソー下さい」
……あれっ? 辛いの駄目なんじゃなかった?
目をぱちくりさせていると、落ち着き払った様子でビールグラスに口を付けている。
「……」
聞き間違いかとも考えたが、何となく突っ込めないままに、お互い大人しく料理を口に運ぶ。
淡々とした静寂の中に、カウンターの中から食材の焼ける音が耳に届いた。
「はいっ、チョリソーですね」
すぐに注文の品がやって来た。
どう見ても辛そうなソーセージとしか思えない。
「それ……辛くないです?」
恐る恐る右手の顔を覗き込む。
「えっ? あぁ……刺激的だよね、コレ」
何の躊躇いもなく、かぶりついている。
見惑ったかと、睫毛を瞬いた。
「…………辛いの、苦手、では……?」
「全然平気」
我慢ならずに聞き直すと、悪びれた風もなく衝撃的な即答があった。
「……なんでそんな嘘付くんですかー!?」
「いやぁ、あんまり良い食べっぷりだったから、つい」
『つい』って何だ!?
堪らず非難を浴びせるが、戻って来た言い訳にこちらが赤くなった。
耳の先まで火照ってしまったのが解って、両手で口元を覆い隠す。
「意地悪」
眉間を寄せながら悔しくて口を突いて出るも、何故か言われた方の人は機嫌良さそうに口元を緩めている。
下瞼に寄った皺に、またしても心臓を撃ち抜かれてしまったらしい。
「~~~~」
睨み上げたがちっとも効いてくれずに、一層屈託なく笑った。
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