実感

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店へ訪れた時刻は確か、20時より前だったはずだ。 随分長い間、ゆるゆると飲み続けているように思う。 入った頃は満席に近かったが、ビジネス街の路地裏という立地もあってか、然して客の出入りは激しくない。 追い出されないのを良いことに、心地良い空間に居座っている。 多少酔いが回っていることだけは自覚している。 「先ぱぁい……わたしってそんなに面白いですか? 騙されやすいから?」 姿勢も段々と崩れて来て、テーブルへ乗せた片腕に頭を預けていた。 図らずも、舌っ足らずで泣き出しそうな口調に聞こえる。 先程からかわれた事実を引き合いに出して絡んでいる様を、もう一人の自分が傍観している。 隣で聞かされている人は、さぞ鬱陶しかろう。 「……いや、ごめん。あのさ、さっきは上手く言えなかったけどさー……」 「どうせ馬鹿だもん、わたしが……解ってますよーだ」 何か謝っているらしい彼の声に被せるようにして続けた。 「……それじゃないの、原因は。……そういう隙見せられると、男は弱いから……」 唐突に睡魔が襲って来て、うとうとと下がって来る瞼に抵抗を試みていた。 中薗さんの話している内容が頭に入って来ないと感じていたところに、耳を掠めた。 「……可愛いなって、思うんじゃない?」
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