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んっ……可愛い? って言った、今??
少しばかり理性を取り戻した頭で、睫毛を瞬いて重い身体を起こした。
綺麗な横顔は先程から面杖を付いた体勢を崩すことなく、虚ろな瞳でテーブルの一点を見つめている。
「……だからー……そういう隙は相手選んで見せたら良いんだよ、多分」
何だ、この人も酔ってるんだよね。うん、きっとそうだ。
回らない頭ながら、どうにかして励まそうとしてくれているに違いない。
言い聞かせつつも、頭を持ち上げるとふらふらと景色が揺れ動いているようで目が眩む。
カシスビア、サングリア、ワイン……本日のアルコール履歴を順繰りに辿ると、そりゃあ酔っ払うかとひとり納得する。
「おっと」
唐突に中薗さんがわたしのスツールの背後へ手を伸ばした。
必然的に距離が縮まり、アップの顔が耳元まで接近する。
目を見張っている内に、胸が爆音を立て始めた。
背もたれに掛けてあったカーディガンが、ずり落ちそうになっていたらしい。
肩が触れ合いそうな距離で、見合わせた顔は毛穴が確認出来そうな程、近かった。
静まらない心音は何故だろう。
幾らか冷えた脳内が、思考を再開する。
──この人は、射場係長じゃない。
隣に座っても近寄っても、あの甘い香りがしない。
中薗さんに対しても胸高鳴らせてしまっているわたしは、一体何なんだろう。
「……なんか独特の匂いがする……」
姿勢を戻しつつ、上目遣いで窺うような視線を投げられた。
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