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見透かすような瞳から目を逸らせずに、中園さんを見つめたまま大粒の涙が零れ落ちてしまった。
「……別れたい…………別れたいのに、離れられないから、困ってる……んです……!」
言ってしまった自分の顔は、きっと不安で仕方ない心が透けてしまっただろう。
こんなことを告げられても困るに違いないと、動揺から僅かに目線を落とすと、彼が口を開いた。
「……実は、俺も同じなんだよね」
静かな声に反応して顔を上げる。
真っ直ぐな眼差しは、何処か悲しげだった。
『同じ』。
──“別れたいのに、離れられない”──
自ら口に出した台詞を反芻して、言われた意味を飲み込むと、涙が引っ込んだ。
瞠目していると、着信音が止まった。
「……嘘……それも、嘘……ですか?」
「本当だよ」
きっぱりとした口調だった。
暫し互いに見つめ合ったままで、周囲の音が遠のいて行くような錯覚に襲われた。
どのくらいそうしていたのか、定かではなかった。
中園さんが前へ向き直ると、はっと我に返った。
狭い店内は他の客が一組居るだけで、これでは彼に泣かされたようで申し訳なかった。
「……出ようか、此処。会計済ますから、先行ってて」
隣の人が立ち上がり、椅子の脚が軋んだ。
バッグを取り上げ、捲ったブルーのワイシャツの袖を整える後姿を横目に、言われた通り足早に店の外へ出た。
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