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足元のコンクリートを眺めると、店内から漏れ出た灯りに背後から照らされ、影になっている。
パンプスの爪先が映り込むと、まだバクバクと鳴り止まない心臓の辺りを堪らず押さえた。
こんな気持ちになってはいけないと、自制を図るが上手く働かなかった。
居たたまれずに瞼を閉じる。
考えるまでもなく、再び期待してしまっている心に感付いていた。
わたしを此処から連れ出してくれるんじゃないか、なんて……早々に諦めたはずだったのに。
ゆっくりと息を吐き出して、落ち着きを取り戻そうと試みた。
幾ばくもなく、中園さんが店から出て来た。
「出たは良いけど、どうしよ。涙、止まった? 何処か座るようなところ、あると良いんだけど……駅前まで戻るか……」
「……中薗さん。今日は、ありがとうございました」
提案には返答せずに感謝を述べ、足りるだろうかと気を揉みながらもお札を差し出した。
「いや、今日は……お礼だって言ったろ」
眉間を寄せた彼を制して、首を横に振る。
「もう、帰って下さい。終電危ないんじゃないですか……」
「0時回るまでは電車ある。こんな所に女の子ひとり残して帰るわけに行かないし。今日は良いから、仕舞って?」
言われて改めて、気が回った。
0時を過ぎたら……中薗さんは、27歳になる。
大切なその瞬間に、彼女じゃなくわたしと過ごす……?
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