実感

16/18
前へ
/208ページ
次へ
足元のコンクリートを眺めると、店内から漏れ出た灯りに背後から照らされ、影になっている。 パンプスの爪先が映り込むと、まだバクバクと鳴り止まない心臓の辺りを堪らず押さえた。 こんな気持ちになってはいけないと、自制を図るが上手く働かなかった。 居たたまれずに瞼を閉じる。 考えるまでもなく、再び期待してしまっている心に感付いていた。 わたしを此処から連れ出してくれるんじゃないか、なんて……早々に諦めたはずだったのに。 ゆっくりと息を吐き出して、落ち着きを取り戻そうと試みた。 幾ばくもなく、中園さんが店から出て来た。 「出たは良いけど、どうしよ。涙、止まった? 何処か座るようなところ、あると良いんだけど……駅前まで戻るか……」 「……中薗さん。今日は、ありがとうございました」 提案には返答せずに感謝を述べ、足りるだろうかと気を揉みながらもお札を差し出した。 「いや、今日は……お礼だって言ったろ」 眉間を寄せた彼を制して、首を横に振る。 「もう、帰って下さい。終電危ないんじゃないですか……」 「0時回るまでは電車ある。こんな所に女の子ひとり残して帰るわけに行かないし。今日は良いから、仕舞って?」 言われて改めて、気が回った。 0時を過ぎたら……中薗さんは、27歳になる。 大切なその瞬間に、彼女じゃなくわたしと過ごす……?
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

896人が本棚に入れています
本棚に追加