884人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
メールの送信を見届けて、共に設計室を後にした。
近頃は中薗さんが利用している地下鉄の駅まで、一緒に帰ることが増えて来ている。
先日食事の際は終電が迫っていた為、最寄りである地下鉄を使ったが、普段はもうひとつ遠い別の線に乗車している。
薄闇に包まれた街灯の下を歩きながら、遠目に残る没み掛けた夕日を眺めた。
「付き合わせちゃったな。悪い」
声を掛けられて目線を移すと、やや決まり悪そうに、こめかみ辺りを掻いていた。
リフレッシュルームでの甘えた態度について言っているのかと巡らせると、自然とはにかんでしまう。
薬が効いてきたのか、幾分顔色が良いように見て取れる。席へ戻って直ぐに飲んで貰っていた。
「明日の朝、ちゃんと病院行って下さいよ?」
「はーい……」
全く世話が焼けると眉を下げる。
唇を尖らせて念を押した。
力ない返事すらも可愛く思えて来るのだから、重症なのはわたしかも知れないと唇を噛んだ。
しかし先程の有り様を振り返ると一抹の不安が過る。
「中薗さん、一人暮らしですよね?」
「うん」
「……大丈夫です?」
「これくらいの風邪、何とでもして来たよいつも」
口元へ手を添えつつ疑いの眼差しで見上げると、心外とばかりに冷ややかな流し目が返って来た。
「ご家族は……」
「実家、結構な遠さだからね」
淡々と答える伏し目を眺めていたら、怖いもの見たさのような感覚が沸いて、声に乗せる。
「いざとなったら……呼べる人、いますもんね」
「…………そうだな。彼女呼ぶわ」
軽く手を振ると、地下へと潜って行った。
確かめておかないと、勘違いしてしまいそうだということもあった。
けしかけておいて傷付くなんて、身勝手な心を思いながら、後ろ姿を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!