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綾が再びゆっくりと近づいてくる。
現実から逃げないように、真っすぐ目を向けて。
やがて透の前で車いすのハンドリムを止めると、振り切るように言った。
「ごめんなさい。
私、一度でもいいから愛されたかった。
透くんが百々子さんを想うように、
私も誰かに愛されたかったの」
見上げる綾の瞳から
じわじわと涙が滲んでくる。
いつだって綾は、
自分自身を愛してくれるような人はいないと
思いながら生きてきた。
母子家庭に生まれた綾は、
見たくもない母親の女の部分を見せられて育ち、
男を途切れさせずにただひたすらに
男に頼って生きていく母親に嫌悪感を抱いていた。
そしてそんな母親に養われないと
生きていけない自分に吐き気がした。
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