204人が本棚に入れています
本棚に追加
「騒動を起こしたあの日……
透くんが帰ったあとね、私の母が病院まで駆けつけてくれたの。
家を出てからずっと会っていなくて、
とっくの昔に縁を切られていると思っていたのに、
いつも綺麗に着飾っていたあの人が
ボロボロな姿で突然現れたときは、本当に驚いたよ。
9年ぶりの再会だった。
会うなり頬を思い切りひっぱ叩かれて、
挙句の果てに泣かれてしまって……
でも初めて母の涙を見て、
ああとんでもないことをしちゃったんだなって、
ようやく気づいたの」
拭って間もないのに、綾の瞳にきらりと光る水滴が浮かび上がる。
「また一緒に暮らしたいって言ってくれたの。
涙が枯れるんじゃないっていうくらい一緒に泣いて、
あの頃の母の気持ちが少しだけ分かった気がした。
いまだに生きづらさを感じるし、
ふとしたときに涙が出てきたり、
気持ちの浮き沈みが激しい時もあるけれど、
院内のケースワーカーの人が親身になってくれて、
これから先のことも少しずつ考えられるようになったの。
退院後はカウンセラーやDV被害者の
自助グループに参加しながら、
トラウマを克服していきたいと思ってる。
それでもすべてが解決したわけでもないし、
一筋縄ではいかないことがたくさん待ち構えていると思う。
けれど今は、本来の自分を取り戻すこと、
そして母との間にできた深い溝を少しずつ埋めていきたい」
最初のコメントを投稿しよう!