後悔という名の代償 Toru Miyase‐4

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「騒動を起こしたあの日…… 透くんが帰ったあとね、私の母が病院まで駆けつけてくれたの。 家を出てからずっと会っていなくて、 とっくの昔に縁を切られていると思っていたのに、 いつも綺麗に着飾っていたあの人が ボロボロな姿で突然現れたときは、本当に驚いたよ。 9年ぶりの再会だった。 会うなり頬を思い切りひっぱ叩かれて、 挙句の果てに泣かれてしまって…… でも初めて母の涙を見て、 ああとんでもないことをしちゃったんだなって、 ようやく気づいたの」  拭って間もないのに、綾の瞳にきらりと光る水滴が浮かび上がる。 「また一緒に暮らしたいって言ってくれたの。 涙が枯れるんじゃないっていうくらい一緒に泣いて、 あの頃の母の気持ちが少しだけ分かった気がした。 いまだに生きづらさを感じるし、 ふとしたときに涙が出てきたり、 気持ちの浮き沈みが激しい時もあるけれど、 院内のケースワーカーの人が親身になってくれて、 これから先のことも少しずつ考えられるようになったの。 退院後はカウンセラーやDV被害者の 自助グループに参加しながら、 トラウマを克服していきたいと思ってる。 それでもすべてが解決したわけでもないし、 一筋縄ではいかないことがたくさん待ち構えていると思う。 けれど今は、本来の自分を取り戻すこと、 そして母との間にできた深い溝を少しずつ埋めていきたい」
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