204人が本棚に入れています
本棚に追加
「帰る家があるって、
やり直せる家族がいるって、
幸せなことだよ」
「うん……」
綾は深く心に刻み込むように微笑んだ。
ひんやりと冷たい白い頬に最後の涙が流れ落ちる。
透はそっと立ち上がる。
綾は瞳いっぱいに涙を滲ませて、透を見上げた。
「透くんは私と似てるって言ったけど、全然似てないよ。
たくさんありがとう。
そしてたくさんごめんなさい」
綾は自分がしたことの過ちを忘れないように、
そして自分自身に言い聞かせるように、
最後の言葉を繋いだ。
「バイバイ……宮瀬くん」
車いすのブレーキを解除する音が聞こえた。
しっかりと耳に受け止めて、
綾の背中が視界に映ると同時に、
透は踵を返して歩き出した。
.
最初のコメントを投稿しよう!