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「……」
涼と真人は黙ったまま耳を傾ける。
透は二人に背を向けると、遠く離れたベイブリッジを見つめながら言った。
「……俺、10年ぶりに実家に帰ったんだ。
宮瀬の家が売却されてあることを覚悟の上で今日行ってきた。
そしたらきちんと残ってあってさ、親父がたったひとりで住んでた。
10年ぶりに再会したっていうのに、当たりまえのように”お帰り”って言うから、笑ったよ」
久方ぶりに間近で見た父親は記憶よりもかなり老けていた。
その背中はとても小さくて、情けないほど弱々しくて、けれども今ならすべてを許せる気がした。
母親を痛みつけた父親のことも、
逃げるように置き去りにした母親のことも、
そんな母親を守ることができなかった自分のことも。
透は静かに、ゆっくりと振り向いた。
俯き加減に、フ、と自嘲気味な笑みを浮かべる。
「ずっと俺の居場所はここじゃないって思っていた。
本当の自分はもっと別なところにあるって。
自分だけの居場所が欲しくて、地元を捨てるように百々子と暮らし始めたんだ。
だけど……俺はずっと、大事なことを見落としてきたのかもしれない」
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