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ずっと黙り込んでいた真人が、腹の底から振り絞るように叫んだ。
透は真人に目を移して笑った。
やがて視線を落とし、心に秘めた思いを打ち明けた。
「怖くなったんだ。
家を出て行くことを決めた百々子を引き止めたとしても、子供の頃母親が家を出て行ったように、いつか百々子も離れていくんじゃないかって。
そう思ったら耐えられなくなって、別れを受け入れた」
いつか離れてしまうのなら、すべてを終わらせよう、と。
もうあんな思いはしたくない、と。
だけど本当はとっくに気づいていた。
百々子が家を出て行ったあの日から。
何が間違っていたのか、
自分は誰を想い、どこに向かいたいのか。
しかしそれらを認めようとせず、自分自身を欺き、損ないつづけてきた。
百々子と真正面から向き合うことを恐れて、ただ逃げていただけだった。
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