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試写会は大盛況のうちに幕を閉じ、会場では撤収作業が始まっていた。
場内に残っているのは、関係者やスタッフのみだった。
百々子が黙々と段ボールに備品を詰めていると、
「お疲れさん」
陽一に声をかけられた。
「お疲れ様です」
百々子は立ち上がり、軽く頭を下げて笑みをこぼす。
陽一は爽やかな笑顔を見せた。
「よかったね。
無事に終わって」
「はい」
「準備段階から伝わってきたよ。
絶対にいいものしてやるんだっていう君の熱意がね」
不意を突くような突然の指摘に、心臓が大きく波打つ。
「月岡さん、いつも以上に入れ込んでたよ。
もしかして気づいてなかった?」
いたずらっぽく陽一がたずねる。
自分ではそんなつもりはなかったが、陽一にはそう見えていたらしい。
胸の奥が熱くなるような、核心をつかれて冷えるような、落ち着かない感じがした。
「普段も一生懸命だけど、どうして今回だけ、特に熱が入ったんだろうね?」
陽一は〝聞くまでもないけど〟といった様子で、小さく口角を上げる。
「ねぇ、月岡さん。
いつだって真っすぐで、簡単に折れたりしないし、あきらめない。
何があっても自分の足で走っていく、それが月岡さんだよね?」
その問いかけに、何も答えることができなかった。
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