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「一人でぼーっとすることが増えたもの。今だって何か考え事してたでしょ?」
「そんなこと……」
「あんたの母親、何年やってると思ってるの?
なめないでよね」
母親がクスっと、見透かしたように笑う。
百々子は母親の指摘に驚いていた。
そんな自覚はまるでなかった。
ただ、言われてみれば、思い当たる節がないでもなかった。
おそらくあの日――菜穂と綾に会って、透のことを思い出すようになってからだろう。
たしかに、上の空だったり、ため息をついたりすることが増えている気がした。
「ねぇ、百々子。
私ね、お父さんに裏切られたとき、自分の生きる居場所を見失ってたの」
百々子は大きく目を見開くと、思わず隣の母親に顔を向けた。
母親が父親の話題を持ち出したのは、離婚して以来、初めてのことだった。
「居場所……?」
「うん。なんのために生きているか、わからなくなってたの。
今日一日を乗り越えるので精いっぱいで、自分のことも、周りのことも、何も見えていなかったのよね。
百々子が私とお父さんのことで悩んでいたことにすら気づかなくて……。
母親失格よね」
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