197人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
「お母さん……」
母親は優しく笑って百々子の顔を見つめる。
胸の奥が、じんわりと温まっていくのを感じた。
「覚えてる?
百々子が高校生のとき、突然家を飛び出したことがあったでしょ。
夜遅くになっても帰らないし、連絡もないから、心配になって警察に連絡するか悩んでたのよ。
そうしたら透くんが連れて帰って来てくれて……」
「うん……」
――あれはもう十一年も前のことだ。
母親から離婚を告げられたあの日、家を飛び出して向かった先は、透の家だった。
胸に顔を埋めて泣きじゃくる百々子を、透は優しく包み込んでくれた。
少し落ち着きを取り戻した後も、精いっぱい頑張るからと言っていた母親を置いて家を飛び出してきた罪悪感から、家に帰ることをためらった。
でも、そんな百々子に対して、
「気にするだけ無駄だから。
きっと今頃、お前のこと探し回ってるよ。
早く帰って安心させてやろう」
と、諭してくれたのは透だった。
そして、「お前が不安なら俺も一緒に行くよ」と言って、家までついてきてくれた。
ありのままの気持ちを母親に伝える間も、透は隣で震える手を包み込むように握っていてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!