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私のお兄ちゃんは猫だ。
私よりも先に家の子になり、私と1つ下の弟の面倒をみてくれていたらしい。
らしい、じゃないか。
今も、私の面倒を見てくれている。
「ナァーオ」
大学の講義に行くために急いで準備をして荷物を抱えた私の耳に猫の声が響く。
「あっ、スマホ忘れてる。」
机の上に置きっぱなしになっているスマホをポケットに突っ込む。
「ありがとう、行ってきます。」
ばたばたと靴を履いて出ていく私の足元に、お兄ちゃんは擦り寄って一緒に外へ出る。
講義中も、大学への行き帰りの道も、お兄ちゃんは私の側を離れない。
私が座っているときには足元に擦り寄ったまま座り込んでいて、
通りを歩くときには決まって車道側を歩く。
あまりの過保護っぷりに、内心お前は彼氏かお父さんかよ、とツッコミを入れることも度々あった。
「そういえばいつからいるんだっけ。」
もういるはずのないお兄ちゃんが、いつの間にか一緒にいるようになったのは。
ぼんやりと自分を見つめる目に気付いたのか、お兄ちゃんはじっと私を見つめた後、欠伸をしてみせる。
見えるようになったのは、大学一年生のときに事故に遭いかけたときだった。
十字路で反対側へと渡ろうとしたときに、ふと猫の声が聞こえたのだ。
猫が大好きな私は、思わず振り返った。
そして、その一歩先を一時停止を無視した車が猛スピードで通り過ぎて行ったのだった。
あのまま渡っていたら、と思うと今でもぞっとする。
「なんで助けてくれたの?」
思わずそう呟くと、そっぽを向いていたお兄ちゃんはぱっと私を見つめる。
そうして、ゆっくり目を閉じてウィンクをした。
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