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後説
もう雨は降り止んだようやね。ここに置いてある匣の中の物語は楽しんで頂けた? だいぶ外も明るくなってきたようやし、夕焼けも出ている事やから、明日の天気は最悪やね。俺としては、な。……俺もあなたの全てを知る事ができた。もう満足した。
これは俺の持論やけれど、知らなくて良いと判断する事にも、判断する為に物事を知っている事が必要になると思う。そして、自分自身が何であれ、生きているだけで何かを失い、何かを得るんやから、等価交換の法則に従って、儲けていると考えた方が良いと思う。……ま……俺が一番考えろって話になるんやけれどね……あっはっはっはっは……。
もしも、あなたが、再び俺――俺達に会う事になったとしたら、それはきっと、あなたが俺達を必要としている時。ここに置いてある匣の物語に、あなたも加われば良い。ぎっしりと詰めてあげる。あなたの記憶、あなたの時間、全てを詰めてあげる。この匣の人達も「意味を知って」と言っていたやろ? ……そう……ここに置いて在る匣は全て誰かの記憶、誰かの時間をぎっしりと詰めた物。あなたの匣も作りたかったのだけれど、あなたの時間はまだあるし、あなたは匣に成る事を拒否するに決まっているし、俺は拒否される事を知っている。
だから、こうしよう。次の雨の日。俺はあなたを迎えに行く。雨が降り止むまであなたが俺に見つからずに逃げ切る事ができたら、俺はあなたを匣にしない。ただし、俺があなたを見つける事ができたら、あなたはここに在る匣と同じように、俺と共に在るようになる。
お帰りの際は忘れ物がないよう、気をつけて。
それでは、次の雨の日に。さようなら。
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