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景壱は、先程までと大きさの異なる匣を抱えていました。彼が匣の蓋を開くと、中には闇が詰まっていました。それだというのに、眩しく見えたのです。自分が瞬きをしている間に、自分の周りには壁ができていました。見上げると、碧い瞳がこちらを覗き込んでいるのでした。自分は直感しました。自分は匣の中にいるのだ、と。手を伸ばしても、何にも掴めずに、空を切るだけでした。足元に目をやると黒い影が自分の足を掴んで這い上がってきておりました。自分は逃げようとしますが、影は壁からも出てきて、自分を掴み、覆い隠そうとします。景壱の声が頭上から聞こえてきました。
「俺は言ったはず。お代はあなたの時間だと。あなたの時間が無くなったらおしまいだと。だから、あなたの時間はおしまい。俺はあなたの事を知りたくなったから、あなたは匣の中で物語と成る。……ああ。この匣には色んな人が入ってたんやった……仲良くしてな……」
自分は、僕は、私は、俺は、あたしは、うちは、ぼくは、おれは、わたしは、アタシは、ウチは、ボクは、ワタシは、オレは――どうして、ここにいるの?
ねえ。この匣を見ているそこのあなた。アナタ。この声が届いているのならば、ハヤク、にげて。おまえも、匣にされてシマうよ。ホラ、早く。匣からハナレテ。景壱がコノ匣をアナタに渡したイミを知って――
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