前説

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前説

 いらっしゃい。珍しい雨の中どうも……ま……おかけになって。雨が降り止むまでごゆるりと。ここにあるものは、どれも不思議な(はこ)ばかり。蓋を開ければ物語を覗き見る事ができるけれど……仮に、全てを見られ、知られているとしよう。例えば、氏名、住処、血液型、生年月日、家族構成。例えば、食事内容、排泄回数。例えば、性交回数。全てを見られ、知られているとしよう。あなたはどう思うだろうか。答えは簡単だ。気味が悪いと思うだろう。大概の人間はそう思うはずだ。だが、仮に、見られている事こそが快感だという性癖を持ち合わせていれば、如何だろうか。この場合、この対象のみ快感である。他の者は、気味が悪いと思うはずだ。 さて、ここまでで、あなたは何を感じただろうか。もうこれ以上俺の話に付き合えないのならば、このまま雨の中を去ると良い。それだけで、俺との縁は切れる。俺があなたを見る事は無くなる。暫定的に、やけれど。あなたは俺の事を知らないだろうし、俺もあなたの事をまだ知らない。まだと言う事は、わかって頂けるだろう。そう。まだ知らない。これから知る可能性は十分に有り得る。それには時間を要するだろうし、俺があなたの事を全て知る前に飽きてしまう可能性だってある。だが、これだけは覚えておいて欲しい。俺は今この瞬間をあなたと共に()る。俺はあなたと時間を共有している。せっかくやから、あなたの性格を当ててあげる。
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